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老人ホーム豆知識

バリデーション|認知症の方とのコミュニケーション法

基礎知識

「バリデーション」とは、もともと「検証・証明・承認・妥当性確認」などという意味を持つ英単語でさまざまな業界で使用されています。介護の現場では、認知症の方とコミュニケーションをとるための方法のひとつとして活用されています。
今回は、認知症ケアのひとつ「バリデーション」とはどのようなものなのかを解説し、その考え方や期待できる効果、基本的なテクニックなどについてもお伝えします。

バリデーション介護とは?

認知症の方に対するアプローチ方法として、ご本人の感情にはできるだけ触れず、穏やかに過ごしていただこうとするアプローチ方法とは別に、認知症の方のマイナスの感情(悲しみ・怒り・怖れ・不安など)にもふたをせず、むしろ表出を促して共感していくことを目指し、そして「人生の未解決の課題(やり残したこと・心の傷になっていること・大切な人との死別や離別など)」の奮闘を支援すること。これが「バリデーション介護」です。

バリデーション介護では、すべての行動に意味があると考え、言動の奥にある、本当の訴えを探ります。訴えている「言葉」そのものよりも「感情」に寄り添い、共感して探索していきます。例えば「帰りたい」と訴える方には、まずその帰りたい気持ちに寄り添い共感します。そして、会話をしながら、なぜ帰りたいのかを探ります。帰りたいのは、今いる場所が落ち着かないからか、誰かに会いたいからか。誰かに会いたいとしても、それは今、生きている人とは限りません。また、帰りたい場所は子どものころの家かもしれません。あるいは、やり残した仕事があるのかもしれません。こうしてさまざまなことを想像しながら、目の前の方に対し「理解したい」「教えてほしい」との思いで近づいていくことで、その思いは必ず伝わります。

こうして寄り添うことで症状が落ち着いていきます。「大丈夫」「安心できる」と思うことができ、自分の居場所が見つかることでとても穏やかになっていく。これがバリデーション介護です。

バリデーションの基本的態度

普段の人付き合いの基本でもあるため、認知症の方以外との会話でも練習しやすいと思います。以下の基本的態度を意識して接するように心がけることから始めてみましょう。

  • 傾聴する ただ聞くのではなく、奥にある気持ちを酌み取りながら耳を傾け「聴く」
  • 共感する(カリブレーション)
  • 誘導しない(ペースを合わせる)
  • 受容する(強制しない)
  • うそをつかない・ごまかさない

バリデーション介護に期待できる効果

認知症の方への効果

  • ストレスや不安が軽減される
  • BPSD(行動・心理症状)の緩和につながる
  • 自尊心を取り戻し、再び生きる希望をもつことができる
  • 再び他者との交流をもつことができる

ご家族や専門職の方への効果

  • 認知症の方の言動を理解することで、共感・受容が可能になる
  • フラストレーションが緩和される
  • 認知症の方と信頼関係を築くことができる
  • 自分の仕事に自信をもつことができる

バリデーションのテクニック

バリデーションは認知症の方だけでなく、ご家族や専門職にも役立つ方法として世界で高く評価されています。色々なテクニックがあり、全てを使う必要もなく、使う順番も特に決まりがないので、その時の状況に合わせて使い分けをしてみてください。

  • リフレージング(反復)
    認知症の方が話した中で最も重要だと思われるキーワードをリフレージング(反復)します。その際に、相手の声のトーン、大きさ、話すスピードなどを一致させるようにします。
  • オープンクエスチョン
    「いつ」「どこで」「何を」「誰が」「どのように」を聞くオープンクエスチョン(開かれた質問)を多用し、自由に回答をできるようにします。(「なぜ?」という質問は認知症の方にとって難しいため使わないようにします。)
  • レミニシング
    過去の出来事について質問し、昔話をしていただきます。認知症の方が繰り返す昔話には、「人生の価値」や「人生の未解決の問題」などの大切なメッセージが込められていることも少なくありません。
  • ミラーリング
    認知症の方の真正面に向き合い、動作や感情を映し出す「鏡になる」方法です。認知症の方と同じ表情、姿勢、呼吸をすることで感情を分かち合います。(ただし、認知症初期段階の方は、ばかにされていると感じる恐れがあるため活用は避けます。)
  • アイコンタクト
    認知症の方の真正面に座り、カリブレーション(共感)を続け、「あなたを受け止めます」というメッセージを送りながら相手とのアイコンタクトがコミュニケーションの1つになります。
  • タッチング
    目的をもって認知症の方に触れる「アンカードタッチ」という方法があります。スキンシップで相手の感情に寄り添い、話の内容に応じてタッチの仕方を変えます。
    母のタッチング  手のひらで頬をなでるのを繰り返す。
    父のタッチング  頭頂部から後頭部を丁寧になでおろす。
    子のタッチング  首の後ろを指先でなでる。
    友のタッチング  肩を包み込むようにし、上腕部へなでおろす。
  • 音楽を使う
    認知症の方の感情に合った音楽や、その方が大切にしてきた歌、昔好きだった曲を一緒に聞いたり歌ったり、また耳元でハミングをしながら会話をし過去の話を聞きましょう。
  • はっきりとした低く温かい声
    会話が感情的でないときは、声のトーンを低めに抑えて、はっきりとした温かい口調で話しかけます。認知症の方が怒りや悲しみなどの感情を表出しているときは、その感情に共感し、声のトーンを合わせることが大切です。

まとめ

認知症の方とコミュニケーションを取るための方法のひとつでもあるバリデーションを説明しました。色々なテクニックの中から認知症の方の気持ちに寄り添った手段を選ぶことで、本質的なコミュニケーションが図れますし、それによって介護する側の負担の軽減にもつながります。実際に介護の悩みを抱えている人はこの記事を参考にしつつ、試してみてはいかがでしょうか。

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